スロウモーション・ラブ
日常に事故
数日後、りくと並んで登校していると自転車立ち漕ぎ中の新田先輩と鉢合わせした。
「はなびちゃん、おはよ」
「っ、おはようございます!」
「はは、元気」
先輩は学校前の坂道を「キツ~!」と言いながら漕いでいく。
小さくなっていく後ろ姿を眺めていると、不意に隣から手を引っ張られた。
「はなび」と呼ぶりくの声が少し低い。
「あの先輩と仲いいよね」
「委員会で一緒だから」
何気なく答えられただろうか。
諦めたいのに諦めきれないうえに、りくとの恋人ごっこで先輩に嫉妬心を抱いてほしいと思ってる、なんて。
幼なじみのりくにも言えない、情けない私の恋。
どうしようもないな、と自身に呆れながら下駄箱へ入る。
ちょうどその時、死角となった壁側から「りくくん」というワードが聞こえた。
「りくくんってなんであんな平凡な子が好きなんだろ」
「幼なじみだからって弱みでも握ってたりして」
この展開は久しぶりだ。私に聞こえていると知っているのかいないのか、彼女たちはあることないこと私の悪口を言い合っている。
ふと、りくを見るとその身体が一歩、彼女達の方へ向かう。
思わずりくの袖を掴み引き止めた。
「大丈夫。久しぶりだからつい立ち止まっちゃっただけ」
そう、りくと幼なじみであるというだけで、昔からずっと理不尽なことを言われてきた。
こんなことに今さら傷ついたりはしない。
しかし、平然とする私とは違い、りくは気にしているようだ。
「……ごめん、俺のせい」
バツが悪そうに眉を下げる。