スロウモーション・ラブ
私は"反省した子犬のような表情"をするりくに弱い。
りくの顔を覗き込み、綺麗な濃いブラウンの瞳と視線を合わせた。
「わかってて私に頼んだんでしょ?だったら今さらクヨクヨしないで」
「でも、」と歯切れの悪いりくの態度はどう頑張ってもイケメンには程遠い。
仕方ないな、と口角が自然と持ち上がる。
私はりくに一歩近寄り、小さな声で言う。
「りく、そのための作戦はコレでしょ?」
珍しく私から、ぎゅっとその身体を抱きしめる。
「んえ!?」
イケメンの発した奇声に周りからの注目が集まる。
ちょうどいい。それこそりくの「お互いしか見えないバカップル作戦」にぴったりだ。
周りには朝から熱いバカップルに見えるだろう。
「ていうか、今の声」
りくの胸に顔を埋めて笑うと、背中にりくの腕が控えめに回る。
「……突然で驚いただけ」
私には小声で伝え、対外的には「はなび、好きだよ」とわざとらしく愛を伝える。
これだけで「りくくんに興味がある」程度の女子には効くだろう。
しばらくして身体を離す。
お互いの教室への分かれ道となる階段で、チャイムの鳴る中、りくの手が私を引き留めた。
「フリ、やめたくなったりしてない?」
どことなく不安を顔に浮かべるりくに、私は即答で「うん」と答えた。
やめたくなってはいない、だけど、胸に巣食うモヤモヤは何だろう。
答えのない自問を飲み込んで教室への廊下を歩いた。