【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「せっかく楽しくなってきたのにぃ……」
「お酒、好きなのかい?」
「いいえ、緊張を紛らわせようと思って初めて飲みました……ひっく。その、向こうでは寝ても覚めても仕事がありましたから~」
「そうか……大聖女だったものね」

 彼女を連れて最初にこちらに訪れた時だ。確かに強く疲労しているような顔つきだったのを、私もよく覚えている。毒の影響もあったのかもしれないが、思えばあれは日常的な激務のせいだったのではないか、そんなことが頭によぎった。

 自分の行動が人の命に影響するかと思うと、気を抜くことも出来ないのも当たり前だ。年若くして責任ある立場に置かれたのなら尚更。

(周りに、頼りに出来る人が居なかったのかも知れないな……)

 そんな事を思わせるくらいに、彼女はここへきて一度も誰かを想う素振りを見せたことがない。手紙は送るように頼まれたが、それも必要最低限の辻褄合わせだったようだし、彼女の口からセーウェルトに戻りたい、という言葉は未だに一言も出ないままだ。
< 100 / 471 >

この作品をシェア

pagetop