【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 謁見の席で、彼女をジュデットの国民に帰化させる案を申し出たのも、それが理由の一つにある。

 謁見の後、こちらでしばらく暮らす意思を再確認した時も、彼女は自分のことを心配している人間など、さしていないのだと笑っていた。私はそれにどうしても納得がいかなかった。今まで自分の時間や体調を犠牲にして多くの人を救ってきたはずの彼女には、もっと大事にされて然るべきではないのか。

 聖女だから、人を助けて当然だなどという考え方は、私は嫌いだ。どのような立場の人にも、それぞれの苦しみがある。それを無視しているように思えるから。

「殿下、どうかされましたか? お顔がとっても難しい感じになっちゃってますよ」
「ああ、いや。なんでもないんだ……」

 やや私情が混じり渋い顔をしていた私はエルシアから指摘を受け、慌てて普段の表情に戻る。せめてこの国にいる間は、彼女が不必要なことに気を取られず楽しめるよう計らってあげたい。

「すまない、気を遣わせたね。でも、君がこの国の人たちと打ち解けられそうで安心したよ。本当に君が望むなら、いつまででもここに居てくれて構わないから。ここに滞在するのが落ち着かないなら、別に屋敷も用意してあげられると思うし。護衛や身の回りの世話をする者は付けないといけないけどね」
< 101 / 471 >

この作品をシェア

pagetop