【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「うん。いつでも」
「ありがとうございます」

 それを聞くと彼女は心底安心したような顔をして、侍女たちに手を引かれ室内へと消えていった。それを見届け、ベッカーが荒い息を吐く。

「ふぅ、まったく面倒をかけおって……。まあ、少しでも羽目を外せたのならよいとするか。では殿下、我輩は引き続き酒に呑まれた阿呆共を処理して回りますので、あなた様もあまりお過ごしになられませんよう」
「ああ、ご苦労。私も少し風に当たって戻るよ。父上が病み上がりで無理をしないよう、少し言い含めておいてくれ」
「心得ております」

 世話焼きの宮廷医師が職務を全うしようとその場を去り、私は通路の窓を開けてしばらく夜風に身を晒す。

 よい夜だ。優しく身体を照らす月とまだまだ静まる気配がない宴の賑やかな音。あまり、ひとりで居るという感覚にはならない。

 しかし、なんとなしに感じるこの心細さは、なんなのだろう。
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