【WEB版】追放したくせに戻ってこい？ 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります！ めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく

　ここまでくれば、エルシアがいなくなったことが原因なのは明らかだった。治療の遅れ、それは他業務例えば陽炎草の栽培や薬品保管庫の整理などにも影響を及ぼし、聖女たちはいずれも青息吐息、表情も疲労の色が濃い。

　しかし、リリカはそれを認めない。彼女としてはエルシアがいない分の穴くらい、聖女たちをこきつかえば簡単に埋まるものだと思っている。

　一方、現実は厳しい。おそらく診察が終わるまで、後三時間以上はかかるだろう。帰れないのは業腹だが、さすがにあの状態の治療室を堂々と横切って無事に済む保証はリリカにもない。

　かといって、自分の力をお披露目するという気にもならない。切り札は取っておくものなのだ。

（この程度の事態で、崇高なる大聖女リリカ様の力を発揮するわけにいきますかって）

　そんな風に小さくぼやき、ソファの上で優雅にワインを啜りながら、リリカは愚痴を吐き捨てある書物のページをめくる。

　それは元々大聖女室に保管されていたもので、本棚の隅で埃を被っていた。家から運んで来た恋愛小説も読み終わり、あんまりに暇すぎてこんなものに手を出すしかなかったのだ。