【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 彼とは治療に携わる者として縁があり、ランバルダート家にはもう彼以外の子孫がいないという。元は伯爵家だったが領地も返上して後々絶える予定だったので、継承者でもめる必要が無い。なので、私を迎え入れるのに非常に都合がよいと、彼が殿下に申し出てくれたんだって。

 私としても、こっちで下手に領地とか新しい爵位とかを用意して頂いて、にわか領主扱いされるなんてもっての外だし。なのでご厚意に甘え、私はここでは、元のアズリット姓ではなく、彼の義理の娘として、エルシア・ランダルバートと名乗ることになったのであった。

「それじゃ行くぞ、無駄口叩かず付いて来い」
「待ってよお義父さまぁ」
「やめんか!」

 きびきびと白衣を翻し医療棟から出て行くベッカーに一喝されつつ、私は浮き立つような足取りで付いてゆく。王宮の西側から中庭を通り過ぎ、南西の一角にたどり着くと、よく日の当たる場所があった。

 たしかにこの辺りには来たことがない。
 ガラス張りの大きな温室の中には、動く人の姿はないようだが……。
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