【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
(あんな一面もあるんだなぁ……)

 私が接したことのある殿下は温和で穏やかな印象の強い人で、配下の人にあんな態度を取るなんて想像も出来なかった。

 そりゃやっぱり王太子として、毅然とした対応をしなければならない時もあるのだろうけど、それにしてはややきつい、人を遠ざけようとするような物言いだったように感じる。

(ま、ここに来てまだ日が浅い私が注意できるようなことじゃないわよね……。あれっ?)
 
 あまり気にしないようにしてその場から立ち去ろうと思った私の視界に、同じように隠れた小さな人影が映る。

 近づいても夢中なのかこちらには気づかないで、物凄い渋面で殿下の背中を睨みつつ、爪を噛んでいる。傍に居るお付きの侍女に頭を下げつつ、私はその人物に、背後から声を掛けた。

「どうされました? ミーミル様」
「……うるさいのよ。お兄様ったら、またあんな嫌味な言い方して、皆勘違いしちゃうじゃない……」
「ミーミル様?」
「ああもう、話しかけないでって言ってるじゃないっ!」
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