【WEB版】追放したくせに戻ってこい？ 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります！ めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく

　私は彼を急かすように腕を引っぱる。有限な時間の中で、できる限り多くのものに触れ、記憶に残したいと。

　でもまずは一つ、それに当たって乗り越えるべき試練があった。

「――クリスフェルト殿下だ！」「殿下とお連れ様にご挨拶しよう！」

　こんな美々しい殿下の姿を見た街人たちが放っておくはずはなく。
　すぐに黒山のひとだかりができ、老若男女が歓迎の姿勢を見せた。

　こういう時に役に立つのが妃教育の成果――好意的な振る舞いというやつだ。

　自然な微笑みを浮かべながら人々と目を合わせ、優雅に手を振り返す。
　私はあなたたちの仲間です、仲良くしてくださいねという気持ちを伝えるのが大事。幸いそんな努力は受け入れられたのか、反応は悪くなく一安心だ。

「殿下、お連れ様はなんとおっしゃる方なのですか？」
「ああ、この方はエルシア・ランダルバート伯爵令嬢。事情があって、しばらく王城に滞在しているんだ。もし外で見かけることがあったら、色々と助けてあげてほしい」