【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「ごめん。今日は君の為の外出だった。さあ、あの建物に向かって移動しよう。出来る限りいい思い出を作って貰いたいからね。何か気になる物が有ったら教えてくれ」
「ええ……」

 彼は柔らかい表情で私をリードする。でもその瞳の奥にはどこか、少しだけ憂いと疲労の影がちらついているような気もした。





 竜車に乗って移動するという提案もあったが、今回は断ることにし、私たちは徒歩で王都を散策する。幸いリュートという楽器については道すがら奏者を発見し、色々と話を聞くことが出来た。

 『木』を意味するその楽器は南方の砂漠地帯から伝わったらしく、洋梨型の胴体に丸く空いた穴はロゼッタなんて呼ばれていて、その上を塞ぎ切らないよう細工された網のような装飾板がとってもオシャレ。弦楽器というと真っ先に浮かぶのはヴァイオリンだけど、それよりも随分弦の数が多くて演奏が忙しそう。でもピンピンと弾く音は不思議と心地よい余韻が有って心に響く。
< 174 / 471 >

この作品をシェア

pagetop