【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 殿下もいくつかの曲を弾けるらしく、簡単なフレーズを披露して見せてくれた。きっと静かな夜の下でそれを演奏する彼の姿はとても絵になるだろう。

 そのままにしているといつまでもその場に留まってしまいそうだったので、殿下に促され、私は赤い煙突の建物へ向けて歩き出す。

「あれだよね? しかし、他の物は見なくていいのかい? 服とかアクセサリーとかはあまり好きじゃないのかな?」
「そういうわけでもないんですけど、あまり積極的に触れてこなかったせいか、良し悪しが分からないので……」

 思い返してみれば、聖女としての修練が忙しく、あまりお父様やお母様と街へ出かけることも無かった。そのせいか私の中には貴金属や衣服に関して興味を抱く土壌が形成されていないのだ。色が好みだな、とかはあるけど……どんな生地だとか仕立てとかになるともうとんちんかん。何も分からず、そうなると余計足は遠のいてしまう。

「ははは、それはまあ仕方ない。でもまあ僕でよかったら今度教えるから、新しい知識も取り入れていくといいんじゃない? さあ、着いたよ」

 そんなことを話していると、彼が指差した方向ではもくもくと煙を噴き上げる建造物が。
 その中を覗くと、多くの人が忙しそうに働いている。
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