【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 それは私の心からの贈り物。
 純金で縁取られた、細いガラス製のブレスレット。
 
 今日の王都案内のお礼にせめてなにか差し上げたいなと思っていた折に、たまたま見かけたエメラルドグリーンの色ガラスの腕輪が彼に似合いそうな気がして、気付いたら手に取ってしまっていた。
 
 きっと彼にとって今日の事は数ある日常の一つでしかないのだろう。
 でも私にとってはとても新鮮で、自分の世界の広がりを感じられた大切な一日だった。だからその感謝を、どうしても彼に表したかった。

 相手は本来私なんか歯牙にも掛けないような身分の人だけど……それでもちゃんと、私が嬉しかったことだけは伝えておきたい。そんな気持ちを込めて、それを殿下に差し出す。

 しばし彼は沈黙した。私もなんとなく顔があげられずにいる。
 顔が熱い。両手で腕輪を捧げ持ったままの姿勢で耐えていると、殿下がポツリと言った。

「参ったな……」
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