【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 そんなことは露知らず、彼は書き物を中断するとうずたかく積まれた書類を棚に収めてゆく。

「本当に、エルシアさんみたいな知識のある方が来てくれて大助かりですよ。普通の人だったら雑草と薬草の見分けもつかなくて抜いちゃったりするもので、なかなかお手伝いも頼めなくて」

 ローエンさんが今整理しているのはこの園で栽培している品種の成長記録のようだ。
 数百種以上もあり、世話も手間のかかるものばかり。
 薬草園をひとりで管理していることもあって、これまでろくに整理する暇も無かったのだろう。

「少し休憩にしましょうか」

 彼はそれが終わると奥に引っ込み、ハーブティーを淹れて振る舞ってくれた。
 お手製の茶葉をブレンドしたもので大層香りがよく、ハチミツ入りのクッキーまで添えられていて、心地よい空間に気分がほぐれてゆく……。

「ふぅ……ローエンさんもお一人で大変ですね。王宮の方で新しい人を雇ったりしないんですか?」
「それがねえ……。庭仕事は意外と皆やりたがらないのですよ。虫や草が苦手な人も多いですし、夏は暑く、冬は寒い。手も荒れてしまいますし、たまの手伝いならいざ知らず、毎日となるとなかなか……」
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