【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 白肌病に掛かった人間は、せいぜいが二十か三十そこらの年で眠るように逝っちまう。あいつはずっと、自分と同じ志を抱いた仲間がこの世から旅立つのを見送ってきた。その度にどうにかできないかともがき続けてたんだよ。

 あいつ自身いくつもの薬を作り、その貢献により白肌病の権威として認められ、国から宮廷医師として招かれるほどにもなった。しかし根本的な治療には遠く至らない。そしてもう、とうに小さい頃あいつが夢を語り合ってた仲間もいなくなっちまった。

 あたしはそれを見ていたから……よく聞いたよ。若い頃のあいつがよく呟いてたのを。陽炎草さえあれば……陽炎草さえあればってね。

 実際に陽炎草がどの程度白肌病に効果はあるのかはわからない。だが少なくとも、今までにない治療薬が作れるかもしれないという希望はあった。

 だからさ、あたしはこんなとこにこんなものを拵えて、後生大事に手入れしてたってわけだ。いつかなんかの拍子に種でも手に入るかもしんない、そしたらってさ。こんな婆あになっちまうまでね。どうだい、笑える話だろ?
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