【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく

26.元大聖女、悲しむ

 少し大きめの茂みの中。
 私は今、一人で息を殺して様子を窺っている。
 遠くからは時々、木を叩くような音と木の葉が舞い散る音、そして悲鳴のような声が聞こえてくる。

 ――ついさっきのこと。
 殿下は私ひとりをここに隠し、「ここで隠れていても仕方がない、安全を確保してくる」といってどこかへと行ってしまった。 

 私は止めようとしたが、彼はひどく怖い顔をしていてなんだか口が挟めなかった。心細く思いながら、私は状況を考える。

 相手が誰かは知らないけど、確実に命を狙われている。
 対象は私か、それとも殿下か……。

 何処の国の人間かはわからないけれど、こんな彼らのお膝元で行動を起こすなんて、よっぽど自信が有るのか。それとも、追い詰められていたのか?

 はっきりした答えは出ないまま、殿下の安否ばかりが気にかかる。
 自分の軽率さが身に染みて辛い。
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