【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 墓地だ。ベッカーはその入り口にある花屋を尋ねて大きな花束を買うと、何も言わずにその中を進んでゆく。

「済まんな。事のついでに墓参りをさせてもらう。我輩も暇ではないのでな」
「いいけど……お友達の?」
「ああ、昔のな」

 ベッカーは束の中から花を一本ずつ抜き出してお墓の根元に添え、目を閉じることを繰り返した。きっと故人とのやり取りを思い出しているのだろう。

 それがひとしきり終わった後、彼はお城を一望出来る高台に移動し、そこで片眼鏡を外して手入れをし出す。

「年々目が見えづらくなってかなわん。身体自体はまだ若いはずなのだがな。さて、人気のないここならいいだろ。何があったか話してみろ」
「……やだ」
「お前が話すなら、殿下について聞きたいことがあれば教えてやってもいい」
「う……」

 その言葉は、今の私にとっては非常に魅惑的だ。私は観念すると、重い口を開き始める。
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