【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「殿下と、言い争いになったの」
「ほう? あの殿下とか。それでどうなった」

 ベッカーは、意外そうに声のトーンを上げる。どこかその唇もほころんでいるように見える。

「どうもこうも、あれから一度も話してないし、顔も合わせられないし」
「なるほどな……」
「私、殿下に嫌われたかな?」

 私はついその場にしゃがみ込むと、両腕で頬杖を突いた。

 ここに来てから数か月が経つけれど、未だ私は観光気分のままだ。
 視線の先にある、あの大きな城に今私が住んでいるって考えると、すごくおかしな気分になる。

「そうか、殿下を怒らせたか。お前も中々やるではないか」
「どういう意味よ?」

 こっちは真面目に相談してるのに……。
 ベッカーから返ってきたのは面白がるような言葉で、さすがに私の唇も尖る。

「褒めているんだ。殿下が他人のことで怒るなど、滅多にないのだぞ」
「……?」
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