【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 白肌病を患いながらも医術を学び、多くの仲間が亡くなる中自分だけが生き残った。いつ同じように命を落とすかわからない中で……それでも、彼は希望を失くすことなく医者という仕事を続け、しなやかに生きている。いくつもあった辛い出来事からも逃げ出さず、ちゃんと受け止め、飲み込んで消化して、多くの人を助ける力に変えてくれている。

 そこで私は院長と話した時や、妹のことを思い出した時に感じた胸のつかえに、やっと思い至った。

 ベッカーと比べて私はどうだろう。王太子と妹から受けた仕打ちや、大聖堂の激務に嫌気が差して旅に出た。その先で殿下と出会い、偶然魔族の国へと送られてきた……。

 新しい場所で多くの人が、私を温かく迎え入れてくれる中で、私は嫌なことから区切りも付けぬまま、流されるままにこの国で過ごしていられればと考えていなかっただろうか。

 自分の境遇や苦しみを受け入れ、こうして前を向いているベッカーの姿を見て、私は勇気を貰い、同時に。

 このまま、この国でずっと居ることはしてはいけない――そう、思ってしまった。

「……そうだよね。うん」
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