【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 息も絶え絶えになりながら、震える手で傷口近くを触り、匂いを嗅ぐ。
 血と混じるわずかな刺激臭。
 それと、この痺れるような感覚……多分普通の傷ではなく、毒。
 以前に嗅いだことがあってぴんときた。民間にも出回っている狩猟用の安物の毒だ。

「君……大丈夫か!? 君っ!」

 意識が混濁し、激しい痛みすら朧げになってくる。
 青年の声が頭に反響する……。

 聖女の力で治せればいいものなのだが、あれは精神の集中が必須だ。こんな呼吸もままならない状態では使えるわけがない。体もうまく動かず、私は彼に必死にお願いした。

「矢を、抜いて……傷口を洗って、青い、蓋の薬……塗って」
「わかった」

 私が力を振り絞って自分のトランクを指差すと、彼は手早く処置を始める。
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