【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「殿下は、きちんとエルシアと話すべきです。確かに、これはジュデットという国を左右する重要な決断となり得ることだ。ですがそれ以前に、エルシアにとっても殿下にとっても、これからの人生を歩む上で大きな岐路となることでしょう。彼女を大切に思うのなら、あなた自身がよくよく考え、周りとも話し合って後悔のないようになさるべきだ」

 そして殿下の背中を叩くと部屋の扉を開け、振り返る。

「道はきっと、一つではないはずですぞ」
 
 最後に声を掛け、一礼して部屋から出た。
 廊下を歩きながら思い返すのは昔のことだ。
 
 我輩が殿下とよく言葉を交わすようになったのは、不穏分子に攫われた殿下が一時精神的に不安定になり、医療棟に預けられた時のこと。

 殿下は一日中ベッドの隅に蹲り、毛布を被って丸まっていた。ご家族が会いにきても一言も話そうともせず、食事もろくにとらずにいた。翳らせた瞳を俯かせたままずっと自分の手を見つめるその姿から、彼が立ち直ることが出来るのか、疑問視する声が宮廷内でも上がったほどだった。
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