【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
『そんなことをずっと考えておられたのですか……』

 彼は恥じていたのだ。恐怖に屈してしまった自分自身に。
 そして強い自覚と責任感の元、それをどうしたら克服できるのかをじっと考え続けていた。周りの人々が彼への期待を失う中、ずっと一人で。

 それを知り、この方はきっと立派な王になられると、私はそう思った。だから、こんな話をした。
 
「王様とは、仮面を被るものなのですよ」
「仮面?」
「ええ。どんなに強い王様も、もう一枚の顔を持つのです。あなたの心の中の自分とは別の、もう一人の自分を」
「もう一人の……自分」
「お父上の真似でも、物語の中の英雄を演じても構いません。もう一人の自分を持たれませ。心の中では泣いても、外では胸を張りなされ。そうしたふるまいを覚えることです」
「上っ面だけでいいのか?」
「簡単なことではありませんぞ。多くの人の前でそれを演じるには大きな度胸と自信が必要です。そうして毛布にくるまっている怖がりの殿下に出来ますかな?」
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