【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 炊きつけるような口調でそんなこと言った我輩に、殿下は少しむっとしたが、その後太々しい笑みを浮かべる。

「そうだな。ありがとうベッカー……いつまでもこうしていてはいけないな。クリスフェルトではなく、僕は王太子に戻らなければ」

 そうしてベッドを飛び降りると、彼は扉を手に掛け振り返る。

「またここに来たら、僕の話を聞いてもらえるか?」
「仕事が暇なときであれば」
「よろしく頼む」

 吹っ切れたような笑顔を見せ、殿下は病室を出て行った。
 それからだ。殿下が家族と距離を置くようになったのは。
 柔和で温厚な王太子という仮面を被りながらも戦う術を覚え、どこへ行くにも最小限の護衛だけで済ませるようになった。陛下の仕事を少しずつ受け継ぐ彼に、昔の事など無かったように民衆は期待を寄せ始める。

 しかし、たまに他に話せない悩みを打ち明けられるのを聞きながら、我輩の胸には少しだけ悔いがあったのだ。
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