【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「いや、離して! 私は兄様のことを許したくない!」

 ミーミル様の手が私の身体を打つが、我慢していると、それは少しずつ弱々しくなってくる。

「やだよう、エルシア……」

 ミーミル様が私の胸にぎゅっと顔を埋め、小さくえずいた。
 人の感情というものは本当にままならない。

 ミーミル様はきっと心の奥底では殿下の影を追っていたはずなのに、いざそれが目の前に来るとこれまでの苦しみが手を伸ばすことをこうして拒ませてしまう。

 力になってあげたい……そう思うけれど、私だって家族とちゃんとした関係が築けているとは言い難い。そうであれば、こんな風にして旅に出ることも無かっただろうし。

 時間が経てば、この問題は自然に解決してゆくのかもしれない。だから今ここでどうにかしようというのは私の我が儘のような気がするし、逆効果になるかもしれないけれど。
< 294 / 471 >

この作品をシェア

pagetop