【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 そして今、陽炎草を片手に感慨深い表情を見せていたベッカーにも誓う。

「待っててよ、こっちに戻って来たら、きっと私も薬作りを手伝うから……!」
「ああ……そうだな」

 叶うかどうかも分からないそんな私の言葉を疑いもせず、ベッカーはその鮮やかな赤瞳をこちらに向けたまま近付いてくる。てっきり握手でもするのかなと思ったら、彼は私の身体を引き寄せ、しっかりと抱き締めてくれた。

「べ、ベッカー!?」
「ありがとう。これは大切に使わせてもらう。お前のお陰で、我輩の人生も捨てたものではないと思えたよ。この年になって、こんなにも得難き友を作ることが出来たのだからな……」
「……こちらこそね、世話焼きの宮廷医師長様。そして、頼りになるお義父様、今までありがとう」

 普段は偉ぶってばかりだったベッカーの真摯な言葉が私の胸に優しく響く。私も彼の背中に腕を回し、しばらくの間そうしていた。

 すると、小さく咳払いの音がする。
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