【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「あっという間だったね」
「ええ……本当に」

 ルーティーンと化していた大聖女としての激務の毎日から、こちらに来て一転自由な生活を送らせてもらった。目まぐるしく、新鮮で、何もかもが記憶に深く刻み込まれる、特別な日々はあっという間に終わってしまって……。

「帰ってしまうんだな」
「はい……」

 名残惜しいけれど、明日に私はこの場所を発つ。馬車で国境の付近に送って貰った後、セーウェルト側には知られていない秘密の侵入路を辿り、私は近くの街まで送ってもらう。それで、長かった私のジュデット旅行は終わりを告げるのだ。

 陛下が、耳に掛かる黒髪を掻き上げて微笑む。

「不思議だよ。話せば話すほど帰った後、辛くなるのが分かっているのに、僕は君の傍から離れられない。魔性の女だな、君は」
「ぷっ、殿下でも冗談をおっしゃるんですね」
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