【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 それだけで、背筋に嫌なものがピリリと走る。

「随分といきなりだな。交渉の内容は明らかか?」
「いえ……ただ、後三日もすればここ王都まで辿り着く予定だということです。急な訪問でしたが、武装などは特に用意しておらず身体検査も素直に応じたため、何よりセーウェルトの王太子が直々にということでしたので速やかにお通ししたと」
「ギ、ギーツ様が!?」

 その意外な内容に私はつい口を挟んでしまう。
 あのプライドの高いセーウェルト王太子が部下を寄越すわけではなく、わざわざ自らここまで尋ねて来るなんて……明らかに不自然だ。

(重大な何かが向こうの国で起きたのか……もしくは、私のことを知られた?)

 険しい顔で話を聞く殿下の隣で硬直していた私の胸に、すっと何か、気持ちの悪い感覚が入り込んでくる。

 それは――不穏だ。
 胸中で渦巻く小さな不安が急に形を持ったかのような、あまりにもくっきりとした予感に私は思わず自分の胸を押さえた……。そんなことで、この焦りにも怯えにも似た不安の感情が、決して収まることはないと分かっていて――。
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