【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「陛下、少しだけお時間を頂けませんでしょうか。王都の傷病者たちを癒したのは姉の力をもってのこと。それだけはこのまま失われてしまうのが惜しいものです」
「ふむ、確かにな……。だがこのセーウェルトを裏切ろうというこやつをそのまま生かしておくことはできんぞ?」

 そこでリリカは一冊の本を掲げ、私は息を呑む。

(それは……!)
「これは大聖堂の大聖女室に保管されていた、聖女の力に関して記述された秘術書でございます。これによれば、同じ者の血を受け継いだ二人……両親や兄弟であれば、ある秘術により聖女としての力を自由に受け渡すことができるとのこと。それにより、姉の力を私に移し替えます」
「ほう……。姉をこの国に連れ戻した理由は情けではあるまいと思っておったが、よもやそんな目的があったとはな」

 セーウェルト王の目が怪しく光り、剣は舌打ちとともに、私の目の前に突き立てられる。

「こやつに利用価値があるということか……なればやってみせよ。その代わり大聖女リリカよ、貴様の両親の命はそれまで預かっておく。アズリット伯夫妻については、こやつから聖女の力を奪い取ったのちに解放してやろう。こやつ自身の処刑は免れぬがな」
「ありがたく存じます」
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