【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「やめておこう」「やめましょう」

 なんとはなしに、すんなりと出た互いの言葉にほっとしつつ……私は台座の前で目を閉じそこで祈る。

 ――神様、私たちはあなたの助けを借りないことを選びます。生きることは、時に辛いことだけど……でも、人から与えられるだけの幸せを、私たちは大事に出来ないと思うから。悩んだり迷ったりしながら誰かと一緒に探す幸せを見つけられた時、初めて私たちは生きている意味を感じられる。そんな気がするんです……。

 それを見届け、殿下が陛下から渡された本をそっと置いた。

「もしかすれば、神様が全てを用意してくれる世界はなんの苦痛も無く生きていけるものなのかも知れない。けれど、そこに希望はきっと無いよね。すべてが空気の様にその場に存在し、何の苦労もなく手に取れる物になってしまったら、生きている実感は得られないだろうから。努力したり、苦労したり、幸運や不運に弄ばれた結果に掴み取る、自分だけの正解が人には必要なんだと、私は思う」

 殿下はそう言うと、私の肩を抱き寄せ、台座に背を向けた。
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