【WEB版】追放したくせに戻ってこい？ 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります！ めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく

　婚約破棄と退職などの手続きでバタバタしていたけれど、それが転じて今ここにあるのは、もしや神のお導き――!?
　うそうそ、ただの私のうっかり返却ミスですごめんなさい。

　そんな大まかな経緯の説明に、殿下はとても驚いた様子で私を見つめた。

「君が聖女だったとはね……どうりで。なんとなく纏う空気が清らかな感じがしていたんだ」

　ええ～、本当かなぁ。
　思わず疑いの眼差しをつい向けてしまう私をよそに、陽炎草を手にしたベッカーは王太子に部屋を出るよう促す。

「とにかくです……！　すぐに陛下の治療を行いましょう」
「それもそうだが、これはあくまで彼女の持ち物だ。こんな希少なものを勝手に使わせてもらうわけには行かないだろう。えーと、そういえば君の名前も聞いていなかった。聞かせてくれるかい？」

　それを制止しこちらを向いた殿下に、ここで初めて私は自分の名前と身分を明かす。すると、彼は見惚れるような笑みで微笑んだ。