【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 やれやれという感じでベッカーは私の鞄を持ち上げ、承諾を受けた私はその場からよろよろと一歩を踏み出す。こんな寝巻きで人前に姿を現すのも恥ずかしいが、それを気にしている余裕もない。

「無理するな。君は僕が父上の元へ連れて行こう。それまで体力を温存していてくれ」

 そこで私は内心で悲鳴を上げた。
 殿下が私の身体を足元から掬い上げ、なんと胸元で抱えたのだ。

 ドキドキするが、いやいやこれは単なる動けない私に対する介助行為なのでセーフ。それに美青年の腕の中でときめいている場合でも無い。今は患者の事を第一に考えなければ。

「頼むよエルシア。父上を、必ずお救い差し上げてくれ」

 近い距離にある彼の柔らかい眼差しからは、家族を思う気持ちが伝わってくる。
 声は返せないけれど、せめて私は彼を元気づけるように、大丈夫だと拳を握ってみせた。
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