【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 王妃は私の側に駆け寄ると、手を弱々しく握った。

「どうか……どうか、我が夫をお助けください。数か月前に妙な熱病に侵されてから色々な薬を試したのですが、体は悪くなるばかり。もう数日に一度しか目を覚まさないのです。……私、見ていられなくて」

 その涙ながらの訴えからは、藁にもすがりたい気持ちなのが痛いほど伝わってくる。

 ほつれた髪や乱れた衣服からは、愛する人が人知れず世を去ってしまうのが怖くて、もう何日もろくに寝ていないのが察せられた。このままではいずれ、彼女の方も参ってしまう。

「この者は今、口が聞けないのです。母上、それだけはご容赦を」

 殿下が私の状態について説明し、私は彼女を不安がらせないように強く手を握り返すと、目を見つめる。

 そして殿下に頼み、私の体をベルケンド陛下の御前に近づけてもらう。
 彼に支えてもらいながら立ち、陛下の診察を始めた。
< 61 / 471 >

この作品をシェア

pagetop