【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 体型は偉丈夫でほっそりした殿下とはあまり似ていないが、目元などの面差しは似通ったところがある。そして頭部には特徴的な太い二本の角。初めて見る魔族らしい魔族の姿だ。

 熱は高く、目は充血している。ここまでは一般的な熱病と同じだが、額や首にあるいくつもの涙型の湿疹が目に付いた。

 予想はしていたが、まず間違いなく――《焦熱病》だ。

 この病は、アカマダラオニビクモという珍しい虫に噛まれ、病原体が移ることによって感染する。長期間の潜伏を経て発される、身体が燃えるような熱が体力を奪ってゆき……一般的な治療薬では改善しないという、すこぶる厄介な病気なのだ。

 殿下たちから聞く話によると、常人なら二月と耐えられないほどの苦しさを、もう半年ほども耐え抜いているのだという。きっとこの人はものすごく肉体的にも精神的にも強い人なのだろう。

 ベッカーたち宮廷医師もあらゆる手を尽くしたはず。
 それもあって陛下は未だなんとか生き永らえ、今も辛そうに浅い息を吐きながら、目を閉じている。

 一刻を争う。症状の診断を済ませると私はすぐさま床に清潔な布を敷いてもらい、その上に道具を並べた。聖堂にあるような立派な器材ではないが、ひとり分の薬を作るだけなら、十分事足りる。
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