【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
「何だその目は。それとほれ。これは我輩からの礼だ。取っておくとよい」

 それはそうと、私の温かな視線に何かを察したのか嫌そうな顔になりつつ、彼は一冊の本を手渡してくれる。

「これって……! いいの!?」

 表紙から中身まで随分と分厚いそれは、どうやらこの魔族の国ジュデットに植生する植物の図鑑のようで、私は大いに喜ぶ。

 この病室で私が過ごす間、殿下と共によき話し相手となってくれた彼は、私がこの国の固有種に興味があるといっていたのをちゃんと心に留めておいてくれたようだ。冷たそうに見えて結構面倒見がよいのには、ちょっと感動した。

「ありがとうね、ベッカーお爺ちゃん」
「返せ」
「うそうそ冗談。ありがとう、大切にするわ」
「まったく調子に乗りおって……。まあよい。今日は用件があって来た。話を聞け」

 苦いものでも口にしたかのような表情をそのままに、ベッカーは舌打ちすると話を切り出す。
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