【WEB版】追放したくせに戻ってこい? 万能薬を作れる薬師を追い出しておいて、今さら後悔されても困ります! めでたく婚約破棄され、隣国で自由を満喫しているのでお構いなく
 今の私の格好は町娘が着るような、若草色の簡素なワンピース姿だ。
 家から持ち出してきた衣装も、旅を意識した物ばかりで、公式の場に耐えうるドレスの類は一着もない。

 化粧道具だって大したものは持って来ていない。
 これで高貴な方々の前に出ようというのは、いくら年中聖女としての制服姿でへっちゃらな私でも、ちょっと恥ずかしい。

 ベッカーも眉を寄せ服の裾を摘まんだ私をじっと見て呟く。

「そうだな。謁見の間まで足を運ぶ前にその姿をどうにかせねばならぬ。人を呼んだから少し待て」

 おお、さすがにこんな部屋着で王様たちに会わせるわけにはいかないと、ベッカーは援軍を用意してくれたらしい。さりげない気遣いがありがたい。

 彼に言われた通りに待っていると、後ろでしたのは先程とは違うきっちりとしたノックと声掛け。ドアを開けると、そこに立っていたのはふたりの侍女だった。

 私よりも少し若そうな彼女たちは、揃ってこちらに可愛く腰を折る。
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