桜ふたたび 前編
「すみません、あの……、それ……」
食い入るように見つめる目の前で、長い指先がかんざしをくるりと廻した。真珠の珠が妖しく光を返した。
「君の?」
静かな声だった。甘く低く、凛と厳粛な響きをもっている。天空から届いたのかと、澪は仰ぎ見た。
「美しい髪飾りだ」
差し出されたかんざしに手を伸ばすことも忘れて、澪はその瞳を見つめていた。
男の瞳は、吸い込まれそうに透明なアースアイ。
──きれいな瞳……。
瞳孔の周りに微かなオレンジのフレア、アイスグレー、ベビーブルーと透き通った色が溶けあうことなく美しい放射線を描いている。
人知れぬ雪の森、辺りの光を吸い込んでゆく冷たく澄んだ湖のよう。美しいけれど、その湖底には、追い求めても決して充たされることのない、哀しいほどの孤独が沈んでいる。魂の置き処を捜して、長いあいだ流離っているみたい。氷河に涙があるのなら、こんな色をしているのかもしれない。
見つめ合う頬を微かな春風が撫でた。
ほんの一瞬。──まるで時が止まったかのような一瞬だった。
食い入るように見つめる目の前で、長い指先がかんざしをくるりと廻した。真珠の珠が妖しく光を返した。
「君の?」
静かな声だった。甘く低く、凛と厳粛な響きをもっている。天空から届いたのかと、澪は仰ぎ見た。
「美しい髪飾りだ」
差し出されたかんざしに手を伸ばすことも忘れて、澪はその瞳を見つめていた。
男の瞳は、吸い込まれそうに透明なアースアイ。
──きれいな瞳……。
瞳孔の周りに微かなオレンジのフレア、アイスグレー、ベビーブルーと透き通った色が溶けあうことなく美しい放射線を描いている。
人知れぬ雪の森、辺りの光を吸い込んでゆく冷たく澄んだ湖のよう。美しいけれど、その湖底には、追い求めても決して充たされることのない、哀しいほどの孤独が沈んでいる。魂の置き処を捜して、長いあいだ流離っているみたい。氷河に涙があるのなら、こんな色をしているのかもしれない。
見つめ合う頬を微かな春風が撫でた。
ほんの一瞬。──まるで時が止まったかのような一瞬だった。