桜ふたたび 前編
澪の髪飾りの乱れを直してやるジェイを、アレクは超常現象を検証するような目で観察した。

──この男が女に執着するのか? 気に入れば手に入れる、飽きれば棄てる、去る者は追わないナルシストが?

アレクはジェイの陰に隠れた澪の全身をさりげなく鑑賞した。
美貌ではあるが、ジェイの交流関係を鑑みれば取るに足らない。プロポーションは少女と見紛うほど細い。おとなしく柔順そうで、アバンチュールの相手としてはおもしろみがなさそうだ。
だがそれも、ジェイのような面倒くさがりには都合がいいといったところか。

──いや、やはりセックスか? 日本人の女はそんなにいいのか?



BGMがムーディーなブルースに変わった。

アレクはここぞとばかりに腰を上げ、

『señorita. 一曲踊ってください』

プリンセスに対するナイトのような謙虚さで、優雅に澪の手を取る。どうしたらいいのかとジェイをうかがう澪に、薔薇の微笑みを向け、『さあ、参りましょう』と促すようにそっとエスコートする。

躊躇いながらも席を立つ澪に、アレクはしてやったりとほくそ笑んだ。
こと女の扱いにかけては友人より上なのに、この間もおいしいところを横からかっさらわれてしまったのだ。リベンジ成功と凱歌をあげかけて、アレクは臍を噛んだ。
ジェイは平然と振り返りもしない。ジェラシーなどと言う感情と無縁の男だと忘れていた。

しかし、近くで見ると澪は思いのほか美しい。日本人は童顔だと言うし、ジェイにはロリコン趣味はないはずだから、これで20歳は超えているのだろうか?
白桃のような瑞々しい肌。鬱陶しいほど豊かな黒髪。鎖骨の美しいデコルテに折れそうに華奢な腰。香水とは違うバニラのような甘い香りがする。

ダンスは不慣れだけれど、一生懸命なところがかわいい。こんな妹がいれば、溺愛して思う存分甘やかしてやるのにと、2人の強烈な姉に散々可愛がられた(いじめられた?)アレクは、つくづく思った。
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