桜ふたたび 前編
資料を戻しながら確言して泰然と席を立つジェイに、エルはケッと唾でも吐きそうな顔をした。
ポーカーフェイスを気取る鼻先を、何とかへし折ってやろうと思ったが、奴のことだ、鼻の骨が折れても痛痒を感じぬのだろう。相変わらずかわいげがないと、表情に隠すこともせずに。
エルはジェイに憎しみしか持っていない。
ジェノヴァの屋敷でまだ目も明かぬ赤子を見た瞬間、その圧倒的な存在に畏れ慄き、以来、敗北感を憎悪に換えてきたのだ。
アルフレックスの汚点が、不潔な妾腹のくせに、卑しい東洋人のくせに、本来なら将来の家長が授かるべき祖父の名を受け継ぎ、祖父の期待と寵愛を一身に受けて周囲を傅かせ、自分と変わらぬ待遇を受けるなど許されるはずがない、と。
憎しみが危険な行為となったとき、弟はジェノヴァの家を出された。
ようやく神が味方したのか、絶対的権力者であった祖父が死に、エルは念願の渡米を果たした。
両親の元でカレッジに通い、卒業と同時にAX入社を祝うパーティーが盛大に催された。誰もが父の後継者として彼を称えた。
それを、突然現れたジェイが、最高学府合格を意気揚々と両親に告げ、ぶち壊したのだ。
──だから教えてやった。母が息子を置いてアメリカへ渡った理由を。どんな野心を抱こうと、正統な血筋である兄を超えることはできないのだと。
──そう、お前は一生飼い殺しだ。せいぜいAXを儲けさせて、マティーに罪滅ぼしをするといい。
ポーカーフェイスを気取る鼻先を、何とかへし折ってやろうと思ったが、奴のことだ、鼻の骨が折れても痛痒を感じぬのだろう。相変わらずかわいげがないと、表情に隠すこともせずに。
エルはジェイに憎しみしか持っていない。
ジェノヴァの屋敷でまだ目も明かぬ赤子を見た瞬間、その圧倒的な存在に畏れ慄き、以来、敗北感を憎悪に換えてきたのだ。
アルフレックスの汚点が、不潔な妾腹のくせに、卑しい東洋人のくせに、本来なら将来の家長が授かるべき祖父の名を受け継ぎ、祖父の期待と寵愛を一身に受けて周囲を傅かせ、自分と変わらぬ待遇を受けるなど許されるはずがない、と。
憎しみが危険な行為となったとき、弟はジェノヴァの家を出された。
ようやく神が味方したのか、絶対的権力者であった祖父が死に、エルは念願の渡米を果たした。
両親の元でカレッジに通い、卒業と同時にAX入社を祝うパーティーが盛大に催された。誰もが父の後継者として彼を称えた。
それを、突然現れたジェイが、最高学府合格を意気揚々と両親に告げ、ぶち壊したのだ。
──だから教えてやった。母が息子を置いてアメリカへ渡った理由を。どんな野心を抱こうと、正統な血筋である兄を超えることはできないのだと。
──そう、お前は一生飼い殺しだ。せいぜいAXを儲けさせて、マティーに罪滅ぼしをするといい。