桜ふたたび 前編
「あれ? 澪、ちょっと雰囲気変わったん違う? なんやろ? 明るなったみたい。
メイク、変えた?」

言われて頬に手をやる澪に、

「指輪? 澪がアクセつけるなんて珍しいな」

慌てて手を引っ込めたが、千世の反射神経の方が早かった。左手をがっしりと捕らえ、リングをためつすがめつ眺めている。

「きれいやねぇ、アクアマリン? ブルートパーズ? なんや○ルガリっぽいぃ、うけるぅ」

千世は爆笑した。

「ええやん、どこで見つけたん? 自分で買うたん? 誰かに貰たん?」

矢継ぎ早の質問に、澪は何が何だか困惑して、思わず最後に頷いてしまった。

「うっそ」

千世は、運ばれてきた京野菜のアンティパストをガン見して、料理の説明など終わるまで待ってられないとばかりにフォークを手にすると、

「いつの間にそんなひとができたんよ〜。そうか、ようやく澪にも春が訪れたんや。心配してたんやで、花も咲かさんまま枯れてしまうんやないかって。おめでとう!」

「あの……、実はそのことで、話さないといけないことがあって……」

「うん、恋バナやね。ええよ、聞くよ、何でも言うて、何でも聞いて、うちは恋の先輩やし」

「あのね、あの……わたし、ジェイと……」

肩を小さくするのと共に声も消え入りそうになって、千世は「何て?」と耳の後ろに手を当てた。

「あの……、その……、お、お、お、おつき……を……」

「え? 聞こえんって」

「ごめんなさい! わたし、ジェイとおつき合いしています」

一世一代の勇気を絞って告白したのに、相手は万願寺唐辛子を囓って、(喜んで損した)と言わんばかりの顔をした。それから口をもぐもぐさせながら、やれやれと言った口調で、

「澪ぉ、おつき合いっていう意味、わかって言ってる?」

ごっくん。

「ちょっとお知り合いになったくらいで、世間ではつき合うてるとは言いません!」

澪が真っ赤になるのを見ても、千世はまったくのあきれ顔で、

「だからぁ、デートしたり、手ぇつないだり、キスしたり、それなりにスキンシップがあって……」

いちいち小さく頷く澪に、さすがに千世は目をぱちくりさせ、数秒経ってから「え?」と一言、鳩が豆鉄砲を食ったような顔のまま、固まった。
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