桜ふたたび 前編
「え? ってことは、その指輪の送り主って、プリンスってこと? まさかほんまもんの○ルガリ〜?」

千世はいまさらながら驚いて、突然思い当たったように、

「ほな、もしも、もしもよ、澪とプリンスが万万が一にも結婚ってことになったら、うちもセレブのお友達になれるってことぉ? うひゃぁぁ!」

カシャン。隣の席でフォークが床に落ちた。

騒がしくてすみませんと肩をすくめて詫びる澪の手を、千世は前のめりになって掴んで引き寄せ、そして目と目を近づけて、

「この際、勘違いでもなんでもええわ、ひょうたんから駒ってこともあるしな」

真顔で言う。それから澪の両手をがっちりと握りしめ、

「うち、断然応援したるさかい、あんた、玉の輿目指しておきばりやす!」

千世の勝手な妄想に、澪は苦い愛想笑いを浮かべた。
澪の中に〝結婚〞という単語は欠落している。千世の結婚を心から祝福し、菜都の家庭を羨ましくは思うけれど、自分が誰かと家庭を築くことは生涯ない。

「て、言うか、澪、ほんまのほんまにプリンスとつき合うてるの?」
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