桜ふたたび 前編
夜が明けても空はしとしとと雨を降らせている。だが、彼方海の上には明るみも見えて、昨夜のような悲壮感はない。
ダイニングで一人ぽつねんとランチをとるシモーネを見て、澪は切なそうな顔をした。
硝子扉の向こうで少年が庭師の父親を手伝っている。親子を見つめるシモーネの目は寂しい。
他人の傷に敏感すぎる澪が、ジェイはときおり心配になる。
「Ciao!」
仏頂面で振り返ったシモーネが、澪の笑顔を見てぽっと頬を赤らめたようで、ジェイはおやっと思った。
シモーネは慌ててプイッとそっぽを向いて、クリームソースのラビオリを口に押し込んでいる。
「Grazie di tutto quello che. (お世話になってありがとう)」
シモーネはいつもの不遜な目を向けたが、澪の瞳にぶつかるとたちまち赤面してしまった。
それでも声だけはぶっきらぼうに、
《Figurati.(どういたしまして)》
ジェイは笑いを噛み殺した。
ジェイはわざとシモーネの対面の椅子を引いて澪を座らせると、その隣に腰を下ろしながら、
《澪が世話になった。何かお礼をしよう》
子どもへの褒美と軽い気持ちで言ったのに、シモーネは本当にいいんだなと目で念押しをする。ジェイは何でもどうぞと目で頷き返した。
《それならミオが欲しい》
これはまた、突拍子もない。
《僕なら、病気の恋人を見捨てることはしない》
痛いところを突かれ、苦笑いを浮かべたところへ、マリアが食事を運んできた。
ジェイには猪の煮込みのパッパルデッレパスタ、病み上がりの澪のためには、野菜や豆類たっぷりのミネストローネが用意されていた。
「Grazie di tutto quello che.」
驚天動地の出来事に、マリアはファビオに叱られたときのように、ぺこぺこと頭を下げている。
ジェイは温かい気持ちで微苦笑した。
この家で使用人に礼を言う人間など、子どもの客でさえいまい。誰に対しても何に対しても自然に感謝を言い表せるのは、澪の美点のひとつだ。条件反射のように謝る癖は、やめさせる必要があるが。
ダイニングで一人ぽつねんとランチをとるシモーネを見て、澪は切なそうな顔をした。
硝子扉の向こうで少年が庭師の父親を手伝っている。親子を見つめるシモーネの目は寂しい。
他人の傷に敏感すぎる澪が、ジェイはときおり心配になる。
「Ciao!」
仏頂面で振り返ったシモーネが、澪の笑顔を見てぽっと頬を赤らめたようで、ジェイはおやっと思った。
シモーネは慌ててプイッとそっぽを向いて、クリームソースのラビオリを口に押し込んでいる。
「Grazie di tutto quello che. (お世話になってありがとう)」
シモーネはいつもの不遜な目を向けたが、澪の瞳にぶつかるとたちまち赤面してしまった。
それでも声だけはぶっきらぼうに、
《Figurati.(どういたしまして)》
ジェイは笑いを噛み殺した。
ジェイはわざとシモーネの対面の椅子を引いて澪を座らせると、その隣に腰を下ろしながら、
《澪が世話になった。何かお礼をしよう》
子どもへの褒美と軽い気持ちで言ったのに、シモーネは本当にいいんだなと目で念押しをする。ジェイは何でもどうぞと目で頷き返した。
《それならミオが欲しい》
これはまた、突拍子もない。
《僕なら、病気の恋人を見捨てることはしない》
痛いところを突かれ、苦笑いを浮かべたところへ、マリアが食事を運んできた。
ジェイには猪の煮込みのパッパルデッレパスタ、病み上がりの澪のためには、野菜や豆類たっぷりのミネストローネが用意されていた。
「Grazie di tutto quello che.」
驚天動地の出来事に、マリアはファビオに叱られたときのように、ぺこぺこと頭を下げている。
ジェイは温かい気持ちで微苦笑した。
この家で使用人に礼を言う人間など、子どもの客でさえいまい。誰に対しても何に対しても自然に感謝を言い表せるのは、澪の美点のひとつだ。条件反射のように謝る癖は、やめさせる必要があるが。