桜ふたたび 前編
《こんな奴のどこがいいんだ! 仕事ばっかりでぜんぜん遊んでくれない冷たい男だぞ。僕ならジェットもクルーザーもヨットも持ってるし、ミオをどこにだって遊びに連れて行ってあげられる》

ジェイは情けないとばかりに大きく頭を振った。

《それはエルとエヴァのものだ。好きな女とデートするのに、親の金と力を使おうなどと思ってはいないよな? ちなみに私は、君の年には投資で$100万は稼いでいた》

シモーネは顔を真っ赤にして、《ちくしょう!》と、握り拳でテーブルを叩いた。

澪が不安そうに袖を引いて見上げている。ジェイは悪い笑みを浮かべると、やおら見せつけるようなキスをした。

ブチッと何かが切れる音がした。シモーネは乱暴に椅子から立ち上がり、イノシシのようにドアを蹴倒し飛び出した。

激昂型な性格は誰に似たのだろう? エヴァの子育てに問題があるのはわかりきっているが、斑気も多いし、会うたびに拗けを増してゆく。規律が厳しいボーディングスクールでも矯正できないようでは、いずれ彼自身が痛い目に遭うだろう。
まあ、甥っ子の将来など、どうなろうと知ったことではないが──。

ふと咎めるような視線に気づいて、ジェイは罰悪く笑った。

「わかった、子ども相手におとなげなかった。シモーがひとのものを欲しがるからいけないんだ」

「少しぐらい貸してあげてもいいのに」

ジェイは目を点にした。こればかりは貸し借りができないのだと、教えてあげるべきだろうか?
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