桜ふたたび 前編
Ⅹ カポダンノ

1、永遠の都

スペイン階段の上に建つクラシックホテルのルーフレストランから、青空の下に広がる美しい町並みが臨める。

コロッセオ、フォロロマーノを巡ってパンテオンへ。ローマは町全体が世界的遺産、見るものすべてが壮大で、まるでスペクタクルな舞台セットのよう。感動の連続で、澪の頭はショート寸前だ。
まずジェノヴァからビジネスジェットでの移動というだけで、目を回していたのだから。

「ランチの後にBasilica di San Pietro(サン・ピエトロ大聖堂)へ行こう。時間がないからMusei Vaticania(ヴァチカン美術館)はまた次の機会に」

一番の目的はシスティーナ礼拝堂だったのにと、残念さが顔に出てしまったのか、ジェイは笑いながら、

「心配しなくても、ローマは逃げない」

メニューを開くジェイは、ピクニックの計画でも練るように愉しそう。そんな笑顔を見ていると、思わず澪の頬も緩んでしまう。

甘い、毎日が蕩けそうに甘い。こんなに浮ついていては、日常生活に戻ってからの反動が大変だ。

己を律するように、ふたりの世界から周囲に意識を移し、澪は怯んだ。

白いテーブルクロスが掛けられた丸テーブルには、金のシェードランプと、金の縁取りが鮮やかなカーマインレッドのプレート皿がセッティングされている。
ドレスコードがあるのか昼間からドレスアップした客で埋まっているのに、ジェイはジャケットこそ着用していてもノーネクタイだし、澪に至っては膝上丈のワンピースにブーツ。少しまずかったのではないかしら。
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