桜ふたたび 前編
澪は心底驚いて、危険を察っして後退んだ。上瞼が重い一重の吊り目にアヒル口。知っている。
「こんなところで会うやなんて、ほんま奇遇やねぇ。何年ぶり?」
澪は頬を引きつらせ曖昧な笑みを浮かべた。
いったんは澪を追い抜いたジェイが、足を止めて振り向き見つめている。
「5年ぶりくらい? いやぁ、ほんま吃驚! あたしもな、3ヶ月前に柚木建設、辞めたんよ」
澪はギクリとした。いや、ゾクリとした。
今のは絶対にジェイに聞かれた。決して触れられたくない過去を、もっとも聞かれたくないひとに。後で何か訊ねられたらと思うと、1㎜も表情筋を動かせない。
「それで、友達とヨーロッパでも行こかってことになってな。佐倉さんは?」
と、女はジェイに興味津々の目を向けて、
「へ~ぇ、またたいそうなイケメン捕まえて、相変わらずやなぁ。ふふっ。そや、記念に一枚ええ?」
答えも聞かずスマホのシャッターを切った。
「ほな、お互いローマを愉しみましょう。チャオ」
嵐のように一人でしゃべった女は、足取り軽く踵を返した。
「アワチャン、イマノダレ?」
澪は思わず振り向いた。何かごりごりとした違和感が、喉を通過していった。
「こんなところで会うやなんて、ほんま奇遇やねぇ。何年ぶり?」
澪は頬を引きつらせ曖昧な笑みを浮かべた。
いったんは澪を追い抜いたジェイが、足を止めて振り向き見つめている。
「5年ぶりくらい? いやぁ、ほんま吃驚! あたしもな、3ヶ月前に柚木建設、辞めたんよ」
澪はギクリとした。いや、ゾクリとした。
今のは絶対にジェイに聞かれた。決して触れられたくない過去を、もっとも聞かれたくないひとに。後で何か訊ねられたらと思うと、1㎜も表情筋を動かせない。
「それで、友達とヨーロッパでも行こかってことになってな。佐倉さんは?」
と、女はジェイに興味津々の目を向けて、
「へ~ぇ、またたいそうなイケメン捕まえて、相変わらずやなぁ。ふふっ。そや、記念に一枚ええ?」
答えも聞かずスマホのシャッターを切った。
「ほな、お互いローマを愉しみましょう。チャオ」
嵐のように一人でしゃべった女は、足取り軽く踵を返した。
「アワチャン、イマノダレ?」
澪は思わず振り向いた。何かごりごりとした違和感が、喉を通過していった。