桜ふたたび 前編
「写真を観たでしょう?」

千世は目を泳がした。
週刊誌に掲載された写真のうち、1枚は事故直後、1枚はクリスとジェイ、Ⅰ枚はジェイとシェリル、そして2枚はジェイと謎の女。

これがまたエロい。バルコニーで男が女の胸をまさぐっていたりとか、クルーザーの上で寝転ぶ男に女が覆い被さっていたりとか。
そりゃ、恋人同士、破廉恥と言われる筋合いはないけれど、身内のイチャイチャを見せつけられたようで、こっちがこっぱずかしい。

「ジェイとクリスの」

え? そっち?

「あの現場に、わたし、いたの……」

千世は目の玉がでんぐり返ったように絶句した。
その写真は穴が空くほど観た。あんな濃厚なニューイヤーキス、ふたりの関係が一目瞭然だ。
それでも、合成写真だとか昔の写真だとか、言い訳できたのに、澪が目撃していたとなればジェイも否定できまい。

「千世、クリスを生で見たことある?」

千世は髪が乱れるほど勢いよく首を横に振った。

「吃驚するくらいきれい。本物のヴィーナスが現れたのかと思っちゃった。シェリルは知的でエルフの女王みたいだった。それから、中国の大金持ちのお嬢様は、ジェイと結婚するって言ってた」

「何、感心してんの! フィアンセに恋人に結婚相手って、わけわからへん。パパラッチにつけ狙われてるのにも気づかないで、あんなきわどい写真まで撮られて、結局、セレブの三角関係、四角関係? いや、五角か? とにかく! 上流階級の恋愛ゲームに、パンピーの澪を巻き込んだだけやないの!」

澪は自分が叱られているように肩をすくめて項垂れている。まだまだ言い足りないけれど、澪を責めても仕方がない。それよりこれからのことだと、千世は声を鎮めた。

「で、どうすんの?」

と、問いながら、千世は一人先走って、諦めと哀れみを含んだ顔で続けた。
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