桜ふたたび 前編
千世は、ピーナッツを口に放り込み、

「澪は人魚姫やから、想いは相手に伝わらへんけど、ええのん?」

「そ・こ・が、澪ちゃんのええとこやないの。逆に、自信満々なでしゃばり女やったら、ネチネチと虐めてさしあげるわ。京女のいけずを思い知れって」

「それな! わかる〜」

ピスタチオの殻を剥きながら、

「東京弁の美少女なんて、女子のいじめのターゲットにされてもおかしゅうなかったのに、いっつも空気みたいに存在感を消して、不思議とスルーされてたもんなぁ。ようよう考えたら、澪はナチュラルに食えへん女なんやわ」

千世とママは感心したように頷き合う。このふたり、気が合うのか合わないのか、両方とも美形好きで肉食系であることは間違いない。

「あ〜あ、ヴェローナの王子様、もういっぺん、会いたいなぁ~」

千世の恍惚とした横顔に、澪は心の中で残念だけどと首を振った。
今夜のことは偶然が重なっただけ。偶然はしょっ中起こらない。あれば奇跡だ。

ふと、ジェイの顔が浮かんだ。
かんざしを拾い上げた指の長さ、澪を強引に誘った腕の力強さ、不思議な音色の声、甘い香り、そしてあの透き通った瞳──。

一瞬、澪の胸奥を、花嵐のような感情が吹き抜けていった。
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