桜ふたたび 前編
「それなのに、君は本心を認めようとしない」

ジェイは自分に問うように、

「警戒心が強いのか、恋愛にトラウマがあるのか」

そして断言した。

「君は臆病なんだ。変化を恐れ前に進もうとしない。常に現状維持が最善だと考えている。だから、私を受け入れて新しい関係を築くことも、拒否して今の関係を崩すことも選択できなかった。いや、選択から逃げた。どうあろうと元に戻れないのならば、有耶無耶にしてしまおうと思ったのか。しかし、帰路に着いて君は悟った。逃げたままでは私から軽蔑される。それは君にとって最も避けたい結果だ」

見てきたような分析に、このひとはテレパスなのかと澪は本気で思った。

「それで?」

何が〈それで?〉なのか、澪は首を傾げた。

「半日も悩んだ結論は?」

「けつろん……?」

ジェイは頷くと、やおら席を立った。
何をするのかと不安な面持ちの澪を窓際に立たせ、照明を落とすと、自分は椅子を回して腰を下ろし、足を組み腕組みし正面からじっと澪を見据えた。

澪の背中では大粒の雨に叩かれた窓ガラスが悲鳴をあげていた。密閉された室内でも、恐ろしい風の咆哮が竜の喉笛のように漏れ聞こえる。
ガラスを突き破りそうな嵐の勢いに、怯えて身を固くする澪に、ジェイは言った。

「君は私とどうなりたい?」

あっと、澪はジェイの背後の出口を見た。
ジェイは澪を断崖絶壁に追いつめて、選択を迫っているのだ。今ここで、決断しろと。渦の前で身動きできない澪に逃げる道を許さない。
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