桜ふたたび 前編
その夜、澪は夢を見た。

幼い澪は波打ち際で白砂の山を作っていた。
頭の高さまで砂を積み上げたとき、突如黒い影が落ちて山を踏み潰した。目を上げると、肩の広い男が見下ろしていた。父なのか、柚木なのか、逆光でわからない。

少女になった澪は再び砂を集めた。
丁寧に強く砂を押し固め、ようやく頂上を作ったとき、今度は紙飛行機が飛び込んできて、山は翼によって半分から切り裂かれ、白い灰となって呆気なく風に飛ばされてしまった。

見るとジェイの姿があった。寂しげな眼で、大人になった澪に別れを告げているようだった。

〈どこへ行くんですか?〉
〈あなたの代わりに、彼は連れて行くよ〉

アースアイの少年が、ジェイの手を取って海の奥へと誘う。
澪は必死に追いかけた。けれど素足に砂が触手のように絡みついて、うまく前へ進めない。

〈君が望むから、失うんだ〉

天から声がした。砂に転ぶ澪の目前で、ふたりは波間に消えていった。
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