桜ふたたび 前編
〈泣いているのか? なぜ?〉

「ニューヨークが、大変なことになって……でも……連絡がつかなくて……心配で……」

途切れ途切れ掠れた声に、ジェイはようやく涙の意味を理解したのか、

〈澪、泣かないで。事故の影響でコミュニケーションラインがダウンして、対策に追われていたんだ。今はLos Angelesだから、安心していい〉

「ロサンゼルス……」

〈Manhattanには戻れそうにないから、予定を早めてここから日本へ向かう〉

「日本に? いつ?」

澪は飛びつくように体を浮かせ言った。

〈フライトスケジュールは日本時間で明日13時20分、羽田着〉

「迎えに行きます」

〈え? 澪が?〉

「はい。──あ? ご迷惑ですね。すみません……」

〈いや……嬉しい。でも、羽田だよ?」

「はい、大丈夫です」

〈……では、気をつけておいで──〉

いつも一方的に電話を切る彼が、今回に限ってそうしなかったのは、何事にも受け身な澪が初めて自ら行動を起こそうとした真意に、震えるような感動を覚えたからだ。
利害のために彼の安否を探る者はいても、純粋に身を案じてくれたのは澪だけだ。

〈I love you.〉

初めての愛の言葉に絶句する澪の狼狽を笑うかのように、電話はツーツーと鳴り続けていた。
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