━小さな世界━
受話器ごしに聞こえたのは申し訳なさそうに名乗りでる菜穂。
『アンタ今どこにいんの?!何してんの?!早く帰ってきなよ!!』
私は驚き声が大きくなる。
道行く人が私を見ていくがそんなのおかまいなしだ。
『ごめん。帰らない。もう無理限界。楓のことをよろしくね。』
何かを思い詰めた様子の菜穂。
『はぁ?!帰れないって何?アンタ母親でしょうが!』
電話を握る右手に力が入る。
『ごめん。また連絡するから。』
─プゥープゥープゥ──
電話は一方的に切られてしまった。
こっちの質問にも全く答えない菜穂。
菜穂に一体なにが起きたのか?
菜穂は本当に家に戻ってこないの?
我が子を捨てる気??
わからない。
17年間一緒にいたけれど
今1番菜穂がなにを考えているか
わからない。