不幸な平凡メイドは、悪役令弟に溺愛される
わたしと、アーレス様と、女王陛下に剣の守護者様が、魔術研究所の正面玄関前のフロアにいた。
本当はそこに、わたしのご主人様のテオドール様も一緒にいたのだけど――。
「テオドール様がいない!?」
わたしが混乱していると、アーレス様が声をかけてきた。
「テオドール伯爵は、おそらくお兄様を見たからいなくなったのだと思いますわ……」
「え……?」
わたしは、なぜ剣の守護者様を見たら、テオドール様がいなくなるのか、関連性が分からずに戸惑った。
「マリアさんがご一緒に男性は、ピストリークス伯爵よね?」
女王陛下がわたしに声をかけてきた――。
「なんだ? あの黒い魔術師はピストリークス家のやつか?」
剣の守護者様が乱暴な口調で、女王陛下に声をかけた。
(しかしながら、大好きだった剣の守護者様が乱暴な口調……夢が崩れていく――)
だけど、それ以上にテオドール様のことの方が心を支配していた。
「そうよ……彼、あの祝い事の場にいたのよね……」
彼女は口に手を当てて、考え込みはじめた――。
(祝い事の場――テオドール様のお父様が摘発されたという――? その場にテオドール様もいた――?)
女王陛下が口を開いた。
「あの時、姫だった頃の私に声をかけてきたご令嬢が、確かテオドール伯爵のお姉さまのはず――」
「ああ、思い出した。姫のあんたに、無礼な口をきいてきた女だろ?」
「ええ、まあ、そうね……マリアさんも事件のことはご存じかしら?」
女王陛下がわたしに声をかけてきた。
「はい、街の人たちが噂をしている程度の内容ですが……」
アーレス様が話に入ってくる。
「あなた……アリアではなくマリアというの? まあ、どちらでも良いわ。その時の祝いの場で、テオドール伯爵の姉が、姫様時代の女王陛下に暴言を吐いたのですわ」
(姫様時代の女王陛下に暴言……)
「それで、お兄様と、お義姉様の元婚約者が、テオドール伯爵の姉に対して憤慨しましたの。ちなみに事件の全容が明らかになったのは、テオドール伯爵の姉が、女王陛下の元婚約者に恋をしてしまって、べらべら情報を漏洩してしまったからなのですけど……」
女王陛下の元婚約者に恋、というアーレス様の発言。それを聞いた時に、女王陛下が苦笑していた。
気にせずに、アーレス様は続ける。
「その場にいて、父と姉が連行される姿を見たテオドール伯爵は、大衆のいる場に出ることが出来なくなってしまったのです。おそらく、剣の守護者である私のお兄様の顔も見たくないのだと……」
(まだお若いテオドール様にとっては、とてもショックな出来事だったに違いないわ……)
彼に想いを馳せると、わたしの胸は痛んだ――。
剣の守護者様が、アーレス様に向かって話す。
「俺は、あの時、特段何もしていないが――」
その時、その場に別の男性の声が聴こえた――。
「残念ながら、坊ちゃんが剣の守護者様を嫌いな理由って、それだけじゃないんですよね~~」
「ふえっ……!?」
意味ありげな発言をして現れたのは――。
朽ち葉色の髪と瞳をした、ピストリークス伯爵家の執事・オルガノさん、その人だったのでした――。